「本家に行ったはずだよ、棗は。俺たちも行こう」
「深景さんには言った。いつでも出せるって」
電話の向こうから、張り詰めた心葉の返事が帰ってくる。
「本家の敷居は跨ぎたくないけど、今回っていうか、棗がいるんじゃ仕方ないし」
「緊張感ない、綾」
「紘にだけは言われたくない」
寝起きみたいな声で言われても、謝る気にはなれない。
俺はバイクに跨り、エンジンをふかす。
重低音が響き、たちまち電話の向こうの音が聞きづらくなった。