夕焼けの空が一人の少女の瞳を揺らして
暗闇に飲み込まれようとしていた。


学校の屋上、私が知っている場所の中で
一番 お父さんに近い場所。

「いま行くよ、お父さん……。」

寂れたフェンスの隙間に体を滑らせて
安々とフェンスを超えた。

風が私の長髪をなびかせた。

フェンスを一つ超えただけなのに
風が一層 強く吹いた気がして
"もう私を止めるものはない。"と
一人ぼっちになった私にそう思わせた。

優しい、お父さんだった。
いつも笑顔で、優しくて。
そのせいで私はわがままになったのかもしれないけれどそれでも変わらず
愛してくれた、大好きなお父さん。

そんなお父さんが死んで早 3日。

一人ぼっちになった世界は
色も感覚も何もなくて何より寂しい。

どれだけ泣いて叫んで助けを求めても
誰もが見て見ぬ振りして、私を
恐怖のどん底に突き落として行く。

もう、耐えられないよ。

枯れ果てたはずの涙が
風に乗って何処かへ消えた。

その涙を見て

「私も早く逝かなくちゃ。」

と、呟いた。

お父さんからの最後の贈り物の
お守りを握りしめた。

淡いピンク色のお守りはお父さんの
手作りで私の高校入学祈願にくれたもの

お父さん同様 優しい香りのするこの
お守りがあれば怖くない。

「さよなら。」

私は空にゆっくりと一歩 踏み出して
その足から落ちて行った。


落ちている数秒の間にお守りが
熱を帯びたのを少女は知らない__。