途中、不動産屋の前を通りかかった。
壁一面に、お勧め物件の情報が張り出されている。
この周辺だけじゃなく、少し離れた地域の物件もあった。
…引っ越すのも悪くないかもしれない。
でも、これ以上会社から遠くなるのはな…
ただでさえ、毎日30分通勤ラッシュの電車に揺られて通っているのだ。
橋にさしかかったところで、人の姿に気づいた。
一瞬、彼じゃないかとドキッとする。
あれ以来、彼には会っていなかった。
もしかしたらこのままもう会えなくなるんじゃないか…
そんな気さえした。
だから、心のどこかで“会いたい”と思っている自分が居るのを自覚していた。
橋の真ん中で川を眺めていたのは、彼ではなかった。
50代くらいの、少しふくよかな女性だった。
足元には大きなボストンバックが置いてある。
旅行帰りだろうか。
その横を通り過ぎようとした時、その女性も足元のバックに手を伸ばした。
その途端、その身体がふらりと揺れる。
“あっ…”と思ったと同時に、私の腕はその女性の肩を支えていた。

