ふと思い立って、私は橋を渡りきったところで曲がる。
すぐ左手に、例のアパートが現れた。
改装工事を始めるのか、それとも取り壊しをするのか、建物は鉄柱と防音シートで覆われていた。
端の方にそっと、花束がいくつか手向けてある。
亡くなった男性に対しての物だろう。
中には缶ジュースやカップ酒、お菓子なども置いてある。
私は買ってきた缶ビールを一本、それらに並べるように置いた。
そしてそっと、手を合わせる。
…だけど、何を想えば良いかわからなかった。
顔も知らない。名前も知らない。
どんな生き方をしてきたのか、どんな人だったのか…
ただひとつだけ言えるのは、
きっと…もっと生きたかっただろう。
どうして、この世は不公平なんだろう。
なんの罪もない人が死に、
死にたいと思ってる私がこうやって生きている。
どうせ同じ命なら、私を死なせてくれれば良かったのに……
ねぇ、神様……
「明日香ちゃん」
突然の声にハッと顔を上げた。
「あ、タ、タロウ……びっくりした…いつからそこに居たの?」
「ん?ずっと居たよ」
彼はいつもの、人懐こい笑顔を向けた。

