「うん…おやすみ」
どこか悲しい色を含んだ彼の声に、なんだか胸が締め付けられる。
「……ねぇ、タロウ」
「…なに?」
“……あなたは、誰?"
喉元まで出かけたその言葉を、ぐっと飲み込んだ。
「……ううん、なんでもない。じゃあね、おやすみ」
私は彼に背を向けた。
きっと彼は、私の姿が見えなくなるまでずっとそこに居るのだろう。
噴水に落ちた私に、手を差し伸べてくれなかったことが悲しいわけではない。
警察官に向かって、私ひとりじゃないって言ってくれなかったことに怒ってるわけではない。
ただ……うまく言えない。
ズケズケと人のテリトリーに足を踏み込んできたくせに、気が利かないところがあるのを咎めてるわけではない。
だって別に、私はあなたの“駆け引き”に乗るつもりなんてないし、
そもそもタロウだってそんな気があるとも限らない。
自分の名前を、言いたくないのなら言わなくたって良い。
だけど、私が知りたくなったらどうするの?
教えてって言ったら、教えてくれる…?

