結局、千種は家まで送ってくれた。


特別何か話したわけじゃなかったけど
気まずくなくてむしろ心地いいと感じていた自分に驚いた。



「あ、ここです」

10階建てとそこまで高くないマンション
そこの7階が私の部屋。



「ふーん…」

「あの…じゃあ」


手を離し中に入ろうとすると、



「待てよ……誰が帰っていいって言った?」



耳元で囁かれたその声に
身体が燃えるように熱く、熱を持った。




「あ、、の?」


咄嗟に振り替えると……
目の前ほんの数センチの所に妖艶な笑みを讃えた千種がいた。


「俺が、なんとも思ってない女をわざわざ家まで送ると思ってるわけ?」

「?」


その言葉の意味を取れずに首をかしげた私に呆れたように、どこか小馬鹿にしたようにため息をはくと


「まあ、いいや」

掴んでいた私の手首を離すとさっさと踵を返した。



「ふぇ!?…あ、送ってくれてありがとう。気をつけて帰って下さい」


その声に振り返ることなく手を振って千種は帰っていった。




ぺたん。
急に力が抜けて地面にしゃがみこむ。

鏡を見なくても分かるほどに顔が熱い……


「そのうち煙出てくるかも……」


なんてね。


帰ってくる途中では気づかなかった。
今日は月がないから星が何時もよりよく見えた。





“New moon”







なんでか千種の声が聞こえた気がした。