「ごめん、つい、、、我慢出来なくて。
早く帰らないといけないのに」

なんだかんだで、結局僕らが図書室を出たのは、僕が行ってから20分後だった。

「いいって。どうせ日は落ちてたんだから。たいして変わらないでしょう?」

「そうかも、、、だけどさ。やっぱり遅いと色々危ないじゃんか」

そう言うと、優は僕の少し前に出て、クルッと振り向いて、天使のような笑顔を浮かべて言った。

「だから遊君が一緒に帰ってくれるんでしょう?」

「っつ!、、、ほんと、ズルイな。それ、今日僕が道場無いの知ってて言ってる?」

「もちろん」

ああもう。
いつもは、部活の後も道場があるから、ちゃんと家までは送れない。
本当は道場に遅れてでも送りたいけど。
ちゃんとしなさいって叱られるから。
でも、今日は週一の道場が休みの日だから。
そこまで把握したうえでとか。
かなわないよ。ほんと。
天使のように可愛いくて綺麗な風貌で、小悪魔のように僕を試す。
本当に遅いから、僕が何かすることは無いって判断して、あえて煽る。
本当、ズルイよ。
そんなことされても、僕がヘタレで何も出来ないって分かってるんだ。

「ずいぶん嬉しそうですね?」

「ふふ。そりゃあね。週一の一緒に帰れる日ですし?」

「ったく。ほんと変わるよな。クラスでの優はどこ行ったんだよ」

二人きりの時と、クラスの時。
別にクラスメイトだって、ほとんどの奴は知ってるんだから、別にいいと思うんだけど。

「んー?どっちも私よ?」

「そうだけどさ、変えなくてよくない?というか、クラスで冷た過ぎるから僕の片思いだ、って勘違いされるんだけど」

「そんなの、私の知ったこっちゃないってやつよ」

優はそこで言葉をきり、背伸びをして、僕の頬をつつきながらまた続けた。

「というか、遊君は自分が苦労して見れるようになったこんな私を、同じクラスだからってだけで、見られていいの?」

「ああ、そう、だね。それは、気に食わない。」

そこまで言って、ちょっと悪いことを思いつき、僕は優の耳もとで囁く。

「こんな可愛い優は僕だけ知ってれば、いいよね?ねえ、優?」

耳もとが弱いのはよく知ってる。
僕の声が大好きなのもよく知ってる。
少しくらい仕返ししたっていいでしょう?

「っ‼︎、、、そう、ね、、、」

優は一瞬、動揺したみたいだったけど、僕の首に腕を回して、抱き寄せながら、耳元で囁く。

「こういう意地悪な遊君を知ってるのも私だけよね?、、、ねえ、遊?」

っ‼︎、、、ああ、ダメだ。軽く仕返しのつもりが、返り討ちだ。
呼び捨てとか。ズルイよ。
優が僕の声を好きなように、いやきっとそれ以上に、僕だって優の声が、仕草が、全て大好きだ。




「本当、かなわないよ」