人の前で泣いたのはいつぶりだろう。


覚えてる限りでは随分なかったと思う


1人の時間なんていくらでもあったのになんで今なの…?


そう思うのに涙は全然止まらなくて。


もう、わけわかんない


「………っ」


震える唇を噛み締めて、俯く


すると、ふわっと背中と頭に何かが触れて


温もりに包まれた


それと同時に近くで香る翔ちゃんの匂い


凄く、懐かしく感じた


「翔ちゃん…っ」


翔ちゃん、翔ちゃん…。


やっと会えた


もう何年も会ってない訳じゃないのに


"ここにいる"


その事が何よりも嬉しかった


「ばかぁ…なんで勝手に居なくなっちゃうのよ…」


私も背中に手を回し、再会を噛み締めた


「…栞、このままでいいから聞いて欲しい」


その時、上から聞こえた翔ちゃんの声


私が頷くと


翔ちゃんは起こった事を思い出して確かめるかの様に話始めた


翔ちゃんが私と同じように親が離婚したのはずっと前の事だから知ってたけど


再婚して、その人との子供が生まれた事


その後家に帰らずに隣町を中心に暴れていた事


そんな時、綾瀬グループの人に助けてもらった事


中学に入学する時に輝という大きな暴走族に入った事


私の知らなかった事を沢山聞いた


「翔ちゃんはもうずっと此処にいるの?」


隣町を中心にって事は翔ちゃんは今隣町にいるんだよね…?


でも帰ってきたって事はずっといるのかな


「…いや。」


「そん、な…」


またはなれ離れ?


やだ、嫌だ…


翔ちゃんが居なかったら私は何を支えにして生きていけばいいの?


あの家の中で、苦しい空間の中で


これから先途方も無い毎日を送るの…?


そんなの…


嫌だ


言っても翔ちゃんが私を暴走族に入れてくれるとは思わない


どうしたら私と一緒にいてくれる?


どうしたら………


何か、無いのかな


目を閉じて考えていると


ふと、思い出した


"人を探してる。"


"インカローズ"


翔ちゃんの、秘密…


最低なのはわかってる


でも、でもね


私にはこれしかない。


「翔ちゃん」


「…………」


名前を呼んで顔を上げると、翔ちゃんの黒い瞳は私を見ていて


ぐっと息がつまったけど


もう戻れない



「インカローズを持った人が女だったら…


私が潰してあげる」


私は翔ちゃんの背中から手を離し口角を上げた


「翔ちゃんが居なくなったせいで私は頼れる人が居なくなった


だからお母さんが壊れて私も辛い


翔ちゃんのせいだよ…?


ねぇ、責任とってよ」


最低


最低


最低


ごめんね翔ちゃん


「ねぇ?だから一緒に居てくれるよね?」


無神経な事言ってごめんねって謝りたかった


輝の色々な話聞きたかった


だけど、私はもう崖っぷちにいる


逃げ場なんてないの


これ以上1人で立ってる事はできない


「私とずっと居てよ」


私を1人にしないで…。