「月希……知ってたの……?」


背中を冷や汗が流れるのがわかった


違って欲しい


静かに、ただ何も読み取れない微笑みは


肯定の印なんて勘違いであって欲しかった


だけど




「うん、知ってた。


紅羽以外みんな知ってたよ」



運命は予想以上に残酷だったらしい



「そん、な…」


來馬に目を向けると、


私の意図がわかったのか頷いていて


それは月希の言葉に同意で。


目の前が真っ暗になった


私は、3人に何てことをしていたんだろう


─ポタッ


その時、涙が頬を滑り落ちた


霞み、揺れる視界の中で3人が目を見開いたのが見えた


「ごめ、ん…なさい…」


自然とこぼれたのは謝罪の言葉


何も知らなかったのは私だけだった


何も気づかなかったのも


何も気づこうとしなかったのも


何も考えていなかったのも




…私だけだった


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


力が抜けてその場に座り込んだ。


どうしようもない後悔


友達失格が私にはピッタリな言葉だ


何か、何をしてでも謝らなきゃいけないのに


言葉が出ない


初めて、消えたいって思った


私の幸せが大切な人達の不幸と我慢の上に成り立ってたなんて。


最低だ、私。


顔を覆う私に


─ポン


肩に手が乗った


「紅羽、そういうことじゃない」


優しく宥める様にそう言った夜斗。


「紅羽を好きでいる事は確かに辛い事が多かった


お前鈍感だから全然気づかないし。


でも…そのおかげで色々なものに気づけた」


色々な、もの…?


ゆっくり顔をあげると


「ちょ、夜斗…っ」


「俺は一人じゃなかった


いつだって月希は傍にいてくれた」


もちろん恩人は來馬もだけど。そう付け足した


滅多に見せない微笑みを作る夜斗


夜斗に引き寄せられ真っ赤になる月希


嬉しそうな來馬


どういう、こと…?



「紅羽、私達は紅羽の事恨んでたり怒ってなんかないよ


…皆、それぞれが悪かった


話合えなかった私達は子供で


この事件を止められなかったのは無力だったから


決して、紅羽1人のせいなんかじゃない」


月希…。


「俺もここに来た時、罪悪感しかなかった


……俺が3人を殺したから。


でも、話し合ったんだ。


本音で話してこれからを考えると


3人それぞれが後悔と懺悔がある事を知った


許されたかったのは皆同じだ」


夜斗…。


「きっと優しい紅羽なら自分を責めるだろうって誰もが予想してた


許すと言ってもきっと信じないって」


「私は…っ、優しくなんてない」


どうして…?


なんで皆はそんなに優しいの


なんで私を優しいなんて言うの


優しさが、気遣いが、苦しい


「紅羽。」


その時、ふわっと頬に乗せられた手


「來馬…?」


この感触は見なくったって誰かわかる


だって私が愛してやまない人だから。


漆黒の瞳は優しく微笑んでいた


「俺達は均衡を保っていた。


けど、俺達が結ばれた事でそれは崩れた


そして事件が起こりそれをキッカケにお互いの心中を知って自分が間違えていた事に気付いた


そして今、また4人で集まれた


お互いがさんざん自分を責め、考えた


もう、良くないか?


せっかく与えられた4人との時間を謝罪だけで終わらせたい?


俺達はもう紅羽を許した


後は…紅羽が自分自身を許す番」



私は、許されたの…?


今度は私が私を許す…?





「ふっ……うぅ……っ…」


なんだか心のモヤモヤがとれた気がした


「紅羽」


ぎゅっと暖かい腕の中に閉じ込められて更に涙腺が緩む


「うぅ…來馬ぁ…」


嬉しくて気分は晴れてるのに涙は止まんない


だけど


「もー紅羽の泣き虫っ!」


「おい、月希が言うな。泣き虫」


「えへっ…じゃなくて何よバカ!」


皆、笑顔だった


何の闇も知らない子供だった頃の私達に戻ったみたい


そうだ、私はこの雰囲気が好きだった


…大好きだったんだ




「あ…俺達…」


そんな時、すぐ上から声がした


「來馬?」


顔を上げるとそこには目を見開いて驚いてるような來馬の顔があった


そして來馬の視線を辿ると


「消えてる…っ!」


私達は消えかかっていた


足から徐々に薄れていって感覚はあるのに見えない。


不思議な感覚に誰もが戸惑っていた


それでも少しだけわかる気がする


「私達、心残りがなくなったのかな」


「私もそう思う、月希」


「俺も」


「俺も思った」


そうだね。


元の4人に戻りたいと願った私達はもう


ここにいることはできない


「俺ら地獄に行くのかな」


「夜斗だけな。」


「はぁ?來馬も道連れだろ」


「まーまー、今の私達なら何処にいってもきっと大丈夫だよ」


「そうだよ。喧嘩はするかもしれないけど


今度はたっくさん話して、もっと仲良くなろう


そして生まれ変わったら…」







「「「「皆で幸せになろう」」」」



私達は消えた。


もうこの世にはいない


それでも、最後はみんな笑顔だった


私達が消えてもこの世界は続いていくし止まりはしない


例えばもう一度人生をやり直せるのなら


やっぱり私は4人でいたい。


…もう、あんな事件は起こしたくないけど


この世は不思議な事も起きるし


辛い事だって沢山あるけど



"辛"から"幸"になる1画は


意外と近くに転がってるのかもしれないね



END