「正直なところ…翔って本当は弱いんだ」


「は………?」


「や、喧嘩とかは誰よりも強い


俺が言いたいのは中身の問題だ」


「あぁー…なるほど」


「何かに怯えてる、俺達はそこまではわかるんだ、でも


元々表情に出る事は無いし本人も何も言わないからついつい俺らは見逃してしまう。


…助けを求められた事なんて無かった」


「…………」


拳を握り締め俯く蓮斗に千歳は眉を下げた


戸惑いしかない気持ち


頭と心で違う思い


千歳はそれをよく知っていた。


「蓮斗は紅愛が憎いか?」


「ー…っそんなわけ!」


「お前はちょっとヤキモチやいてるだけだよ。


ずっと心配してた翔の心が紅愛によって溶かされたから。


助けて欲しいっていうサインを紅愛に見せたから。


それがちょっと羨ましかった


ずっと心配してたのは蓮斗だから」


「………ん」


「でも、良かったって思ってるんじゃないか?


翔が心の拠り所を見つけた事も


紅愛がその相手だった事も」


「……………っ」


「紅愛にも翔にも嫌悪感を抱(いだ)かない


それは蓮斗が紅愛と翔を一番に思ってる証拠だろ?


大丈夫だ。蓮斗は仲間思いのイイヤツだから」


「…………っお、う」


千歳は俯いて肩を震わす蓮斗の髪をクシャクシャと撫でた


「また笑えればそれで良い


…明日、2人を冷やかしに行こうぜ



それが俺達のポジションだろ?」



「………っおう!」



そうして、それぞれの思いを乗せた夜は更けていく




「紅愛ー、昨日見ちゃったぞー」


次の日、蓮は最高に気持ち悪いニヤけ顔で紅愛に詰め寄っていた


「…はっ?何を?」


「くく…っ、昨日の夜中、幹部室で翔と…「うわぁぁあ!馬鹿!」


「そんなに赤くなっちゃ認めたもんだろ。」


と、顔は至って普通だが内心笑いが止まらない千歳も言う


「ちょっ、え、千歳も!?


…っていうか蓮さ目赤くない?」


と、紅愛は蓮を見たときふと気づいた


「そ、そうか?ね、寝不足じゃね?」


「はーーん?さては泣いたな?」


「な、な、泣いてねーよアホ!」


…蓮は嘘をつくのが苦手だ。


「アホだぁ?


って、そんなのどうでもいから蓮が泣いた動物のお話教えてよ」


「「動物のお話…?」」


「だって蓮が泣くのってそれくらいでしょ?」


「「「…ぶはっ」」」



「紅愛ーーーー!!てめぇ!!」


額に青筋をたてた蓮が広い幹部室で紅愛を追いかける


「仕返しだばぁーーか!!」


「待てやコラァ!!!」


「おい!2人とも!あんま走んじゃね………」



ガチャ…バン!ドン!


「…よ。…俺知らね」


千歳の忠告も虚しく2人が導いた不幸は…


「何やってんだよてめぇら…」


「し、し、翔っ」


そう、翔だった


それも扉を開けた瞬間に2人が飛び出してきて翔にぶつかったのだから


紅愛は抱き着く様に翔の上に座り込み


蓮は一回転して廊下の壁にぶつかっていた


「し、翔聖…ご、ご、ごめん…」


ギラッと光る妖艶な目は、



ー怒っていた



「へ?わ、ちょっ!きゃっ!!」


翔聖は自分の上に乗っかっている紅愛をそのまま抱き上げると


ベチーーーーーン!


「………てぇぇぇえ!!!」


思いっきり蓮の額を叩いた


そして、悶え転がる蓮を横目に自室に消えて行った








「ただいま」


「おー、お疲れ」


「あれ?千歳だけ?皆は?」


「翔聖はさっき出掛けた。紅愛と蓮は……」


目を泳がせ千歳が指差した方には



「な、なんで紅愛ちゃんそんな顔真っ赤なの…?


それに蓮、顔青いのに額真っ赤だよ…?


一体何があったの…?」


と、あの透真でさえ顔を引き攣らせたのは言うまでもない。





とある深夜


2人はいつもは誰よりも強く、


輝いている総長の影を知った。


そして、その影を取り除く事ができる光の存在も。


思ったより光と影は隣り合わせなのかもしれない


END