誰もが息を呑む中、肩で息をする


でも時は止まったままだった


私も冬詩も動かない


今の所、私はどこにも痛みは無い


相打ちだったんだろうか











そう思った瞬間






「くっ…」


…………タンッ




冬詩が、倒れた


「…はぁっ」


やっと、全て終わったんだ


でも


「冬…詩…」


痛みに顔を歪めて荒い呼吸を繰り返す冬詩


"大丈夫?"


危うく出かかった言葉を飲み込んだ


そして、


石に触れてください


ローズの声に従って冬詩に近づく


ゆっくり、ゆっくり手を伸ばした


黒く妖艶に煌めくその石に触れた


その瞬間


冬詩は力が抜けたように動かなくなった


すごく穏やかな顔をして眠っているようだった


「……っ…………」


ふと力が抜けた


「紅愛!!」


千歳の声を聞きながら


地面に倒れ込んだ


これで、いいんだよね…?


誰が正解を知っているかなんてわかんないけど


後悔は、なかった


ゆっくり薄れていく意識


晴れやかな心に対して今になって体中が痛みだす


こんなに痛かったんだ、なんて思えるほど


途中は全然忘れてた


だけど


「翔…」


考えないようにしてたのにこんな時にまで頭の中にアナタがいる


翔が好きだと気づいてそれからずっと苦しかった


今まで通りいかないのもわかってたけど


あの時、私はあの決断をくだすしかなかった


考えないように友達だって思えば思うほど


気持ちが溢れて友達なんて思えなくて


辛かった


極力話さないようにしてもずっと意識しちゃって


目で追っちゃうのは翔だけだったから


こんな事になるんならもっと一緒にいればよかった、なんて


今更だね


自嘲と愛おしさで少し笑みがこぼれた


その時




ふわっとあの香りが鼻をかすめた


私の大好きなあの人の香り


夢、かな?そう思ったけど


突然暖かい温もりに包まれた


この温もりを私は知っている


ゆっくり、ゆっくり目を開いた


「…ッオイ!」


「翔…」


私は背中に腕を回され抱き止められていた


温かくて安心する香りに包まれてどうしようもないくらい幸せを感じる


頬を緩ませる私とは裏腹に翔の表情はどこか深刻そう


「翔…そんな顔…しないで…」


私がそう言うと翔は目を少し見開いて


更に顔を歪めた


そんな顔、して欲しくなんかないのに


あまり表情が表にでる事は無いけど


今は凄くわかりやすい


でも私は笑った顔が見たいのに…


翔は笑う事が苦手だから無理だとは思うけど


せめて悲しそうな顔はしないで


「…っもう喋るな」


「ふふっ、ひど…」


喋るななんて酷いなぁ


私はたくさん伝えたい事があるのに


時間は待ってくれないんだね


それなら1つだけ伝えよう


力の入らない右腕に必死に力を込めて


ゆっくり翔の頬に手を伸ばした


…届いた


目を見開く翔を優しく見つめて


「……っ…き……」


あぁ、声が掠れた


やっぱり翔は聞こえなかったのか私に顔を傾けた


もう一度…


「だ……ぃ…す……っぁ…」


どうして?


肝心な時にズキッと傷が痛んで声が出ない


「おい!しっかりしろ!」


頬に添えた手は翔の手にぎゅっと包まれた


もう一度、そう思って息を吸った


だけど…


伝えない方が良かったのかもしれない


ふとそんな考えが浮かんで


何も言えなかった


だって、私が伝えたらきっとあなたは傷つくから


それに…それよりも最後はこの優しい温もりを感じていたかった


でもそろそろバイバイだね


この気持ちは伝わらなくてもいい


だからせめてこれだけは言わせてね


「あ………り……がと…」


わたしが微笑んだ瞬間


ぎゅーと強く抱きしめられる


翔、今ね凄く幸せだよ


…ありがとう


弱々しく抱きしめ返して


もう一度翔を近くに感じて


プツリ、意識は闇へと落ちて行った



「紅愛!!!!」









愛おしいアナタの声を聞きながらーーーー