だけどどうやら身構える必要性はなかったらしい。
と、いうことに気が付くのはすぐ後のこと。
凪の口から発せられた言葉に、思わず自分の耳を疑った。
「西山くん、好きです付き合ってください!」
「…………」
「……ん?あれ、西山くん私の話聞いてた?」
「…………」
「もう一度言うね、西山くん好きです私と付き合ってください」
身体が硬直するとは、まさにこのことを言っているのだと思った。
自身の聴覚が大幅に衰えていないのだとすれば、たった今俺は凪からまっとうな告白を受けたことになる。
ただひとつ訂正を入れると、告白の前には(再)が付くけれど。
だけど仮にそう決め付けて、事前に凪が謝る理由がない。
願ってもいない事実に変わりはないけれど、その疑問はどうにも拭い去れない。
凪の言葉には続きでも存在するのかと凪を凝視してみるが、不思議そうに首を傾げるだけで口を開く素振りを見せない。
呆気にとられて凪の手を掴む力も緩みするり、凪の手が解放される。
と当時にその手に握られていた桜餅も離されるわけで、床に落下する寸前に凪が危機一髪で拾い止める。
「あー!冷や汗かいちった」
真剣な顔つきで救出したばかりの桜餅と睨めっこをする凪は、自身の発した言葉の重要性を分かっているのだろうか。
言った当人は落ち着き払っているのに対して、言われたほうが動揺するパターンは有りなのか。
「西山くん、桜餅どうぞ!」
「…………どこ」
「どこって、私の手の中に、ほら」
違う、呑気に目の前にある桜餅の居所なんて尋ねるほど頭は冷静を保っていない。
凪の勘違いな返答に首を横に振って否定する。
聞きたいのは、もっと肝心なこと。

