ああ、なるほど。
凪が確信して言葉にした理由が分かり、やや納得する。
「この前西山くんと約束したからね」
「…………」
「今度は桜餅食べようねーって!」
箱の折り目に手を掛けつつ、胸を張って言う。
開けた箱の中身をこちらに見せるように傾けてくるので、覗き込むようにソファから身を乗り出す。
視界に映るは凪の言う通り、桜餅と言う名の通り桜色のそれを緑の葉で丁寧に包んである。
思い返せば先日、凪が何かそのようなことを笑顔で言っていた記憶が頭の片隅に残っている。
「葉っぱで包んであるから、手掴みでもオーケイです!便利だね!」
自画自賛しつつ満面の笑みを向けてくる凪の、その心境が読み取れない。
もう俺に怯えてはいないのだろうか。
そんなこちらの気持ちもつゆ知らず、無邪気な笑みを口元に浮かべる凪がひとつ、桜餅を差し出してくる。
にこにこにこにこ、警戒心を露わにしている様子は垣間も窺えない。
暫しの間迷って、手を伸ばして桜餅を手にする凪の手を掴む。
触れた途端に指先から微かな動揺が伝わる。
凪の手を上から包み込むような形になっているので、当然の如く桜餅を手中に収められるわけでもなく。
「に西山くん、私の手は食べられないっすよ!」
気が動転しているためか、言葉遣いが変わっている。
「…………凪」
「は、はい」
「…………あれ」
「あれ?ん、あれ?どれ?」
「…………」
「西山くん?」
「…………だから、」
思っていることを口に出して発すことに幾分の戸惑いが生じ、語尾が力弱いものになる。
言い出そうと決意することはこんなにも容易いことなのに。
ただ一言、一言声に出せば良い話であるというのに。

