半ば強要気味に応えを求めれば、戸惑いがちにも返事をくれる。
鞄から鍵を取り出し、玄関の鍵穴に差し込む。
途中自身の部屋に寄ることなくリビングへと一直線に向かう。
後ろの凪は言葉を発することはなくとも、そわそわ落ち着きのない様子が気配だけで伝わってくる。
慣れない初めての空間に緊張しているのか。
肩に掛けた鞄を壁に立てるようにして置き、振り返って凪を見る。
こちらの視線に気が付きビクリ、肩を揺らして反応する。
そこまであからさまな態度取られると、自分が酷く怖がられている気がしてならない。
「…………お茶、」
「あ、どうもご丁寧に」
来訪者にはまずお茶を差し出すのが礼儀、頭の片隅で思い出しつつ、ソファに遠慮気味に座る凪の前にコップを置く。
本来であれば2人掛けのソファの端に、座っているのかどうかさえ微妙な位置にちょこんと腰を下ろしている凪。
その姿を複雑な気持ちで視界に入れつつ、反対側に回り空いている場所に座る。
「……」
「…………凪、」
「あー!!そうだそうだ思い出したー!」
本題に入ろうとした途端、底抜けの明るい声に遮られる。
「西山くん!おもち食べよう、おもち!」
緊張感しか窺えなかった先程とは打って変わり、無邪気な笑顔をこちらに向けて言う。
そう言うは良いものの、自宅に常にお餅含め和菓子を常備しているわけではない。
在り処を知らずに黙っていれば、笑顔の凪がすぐ前のテーブルを指差す。
お茶を淹れたばかりの湯気が立つコップの横に置いてあるのは、玄関前で凪から渡されたそれ。
まさか、箱に向けていた視線を凪に移せば、得意気ににへら、笑って口を開く。
「桜餅、作ったんだ!」

