特に何の変哲もない、薄い桃色のそれを受け取る。
ずしり、あまり大きくない見た目に反して重圧は意外と掛かる。
この場で箱を開けて中身を確認しても良いのだろうか。
渡してくれた本人の前でそのような行動を取ることは、事前に許可が必要なのだろうか。
為すべきことが分からずただ一点に手元の箱に視線を向けていれば、気が付いた凪が口を開く。
「あ。開けていいよ!」
促されるまま箱の折り目に手を掛けようとして、寸前で動きを止める。
「西山くん?」
「…………上がる?」
「え?」
「…………家」
少し冷静さを取り戻した頭で考えてみれば、凪は届け物ひとつで自宅まで訪ねてきたらしい。
俺がいつ頃帰宅するかの時間帯も把握出来ていなかった筈だから、きっと長い時間玄関先で待っていたのだと思う。
その証拠に、先程箱を受け取る際に不意に触れた凪の指先は、こちらが震えるほどに氷のように冷えていて。
幾分配慮の足りない自分自身に嫌気がさした。
せめてもの心遣いのつもりで尋ねれば、慌てて首を横に振って拒否を示す凪。
「や!突然推し掛けてきたこっちが悪いんだし!」
「…………」
「受け取ってもらったら帰ろうと思ってたから!うん」
言いながら丁寧に頭を下げる凪に、これ以上強要はしないほうが良いのかと判断に迷う。
凪はもう家に帰るのだと言っているのだから、引き留めていたら迷惑なのかもしれない。
「それじゃあ、またね!」
ぐるぐる回っていた思考回路が、凪の一言により中断される。
屈託のない笑顔を残して、足を一歩踏み出そうとする凪。
咄嗟の反射なのかなんなのか、その腕に自身の手を伸ばしていた。
「…………ちょっと、待って」
「え、西山くん?」
「…………やっぱり、上がってよ」
困惑の色を孕んだ瞳をこちらに向ける凪から逃げるように視線を逸らす。
半ば強制的に言えば、掴んだ凪の腕から微かな動揺が伝わってきた。
突然の出来事で思考が錯乱して何も考えられなかったけれど、ひとつ大切なことを思い出した。
「…………」
「……」
「…………上がって」
「え、あ、はい」
俺は彼女に、凪に伝えたいことがあったんだ。

