人生そう上手くは構成されてはいないようだ。
声にならない溜め息を吐いて、益々重たくなる足をゆっくり進ませる。
記憶に刻まれた凪の家は、俺の家と距離は近いけれど方向は正反対で。
途中自身の家を通り掛かることはない。
どちらを優先しようか暫し悩んだ挙句に、頼まれたことを早めに終わらせようという結論に至る。
"呉羽"と玄関の隣に設けられた表札を横目で確認しつつ、一瞬だけ躊躇ってインターホンに手を掛ける。
ピンポーン……
家の中からものの動く気配を感じない。
試しに再度同じ行動をとってみるも、相変わらず音沙汰なし。
仮に家族が皆外出しているものだとして、考えられる可能性はふたつ挙げられる。
ひとつは、当人の凪が就寝中のため訪問の合図に気が付かない場合。
もうひとつは、凪も含めた家の住人が全て不在の場合。
前者はまだ納得せざる負えないけれど、後者だとやや疑問が生じる。
わざわざ学校を欠席してまで自宅に滞在していないのは幾分不審に思える。
うろ覚えながらに担任の言葉を脳裏に思い返してみる。
前回は確か風邪だと言っていた覚えがあるけれど、今回は欠席理由は何だと述べていたのか。
肝心な言葉をなかなか思い出せずに頭を抱える。
どちらにしろ、2度呼び鈴を鳴らしても誰も出迎えないということは、3度目も同じような結果が予想出来る。
手元のノート類に視線を下げる。
届け物はどう渡せば良いのだろうか。
不意に視界の片隅に映ったポストに目をとられる。
何度か手元と郵便入れを交互に見た後、重圧の掛かった手をポストへと伸ばしていた。
ガコン、重力が滑り落ちる。
少々乱暴に投入してしまったかもしれない。
これで、任務は完了。
踵を返して今来た道を引き返す。
数歩歩いたところで、思いは何かに惹き付けられるかのようにして後ろを振り返る。
俺は、何を期待しているのか。
振り返ったその先には、当然の如くアスファルトに続く道ばかりが広がっていて。
誰ひとりの姿も見当たらなかった。

