咄嗟の行動だったとは言え、私はなんでこんなことを口走ったんだ。
目の前で、真由美が目を光らせている。
言ってしまったことは後悔してももう遅い。
「い、いつも無口でいるように見せかけて、本当は格好つけてるだけだし。実はちょっと自意識過剰なところもあるし。女の子に話掛けられて無視してるのは、単に恥ずかしがってるだけなんだよ!うん!(多分!)」
「ちょっと、なに見え透いた嘘吐いてんの?」
「う、嘘じゃない」
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」
とうとう怒りを爆発させてしまったらしい。
真由美の瞳が獲物を狙う目つきになってる。
ちらり、後ろに目をやるが、西山くんは起きる気配を見せない。
あぁもう、この場を免れるがために見え透いた嘘なんか吐くんじゃなかった。
これじゃあ、ますますやばい状況じゃんか。
「――…ねえ、なにしてんの?」
これ以上にない最高のタイミングで、この険悪な雰囲気をぶち壊した飄々とした声。
床に座り込んだまま声のした方に目を向ける。
それは真由美達も同じだった。
教室の扉に背中を預けて、真っ直ぐこちらに目を向けている姿に、真由美達の勢いが途端に怯む。
「真由美、もう行こう」
「っあんた、覚えておきなさいよ」
今時古い捨て台詞を残して、慌てて教室から去っていく真由美達。
さすがにこんな場面を他人に見られるのはまずかったんだろう。
だけど、それはこちらにとっては願ってもいない好都合。
「呉羽ちゃん。大丈夫?」
気が付けば、先程まで遠くに立っていたはずのその姿が、すぐ目の前にいて手を差し伸べてきていた。
恥ずかしながらも身体の力が抜けきって自力じゃ起き上がることが出来なかった故、彼の力を貸してもらいふらつきながらも立ち上がることが出来た。
優しく微笑む彼に、深々と頭を下げる。
「あ、ありがとう。山田くん」
「どういたしまして。そして俺は山城ね」
「本当にありがとう。ちょっと怖かったから……」
自分でも気が付かないくらい、微かに震える口を開いて言い終えた次の瞬間、身体がふわりと甘い香りに包まれた。
抱き締められているんだと気が付くのに、たっぷり10秒の時間を要した。

