話すことを全て言い切ったのか、清々しい表情でこちらの出方を窺っている。



凪の母親が伝えたかったことは、おおよそながらに理解出来なくもない。




言葉を自分なりに解釈してみれば、要するに凪は少なからず俺に好意を持ち合わせていて。



そして自分自身も、凪に対して好意までは行かずとも関心を抱いている。




凪の母親の意見に端から否定して掛かる気は皆無。



気が付いた真実には素直に向き合えば良いだけの話で、俺だって別に聞き分けのない男ではない。




だけど、言わせてもらうならば、少しの猶予期間が欲しい。



ことの整理をするために、改めて一からかんがえるために。



『青春は、悩んで、悩んで、苦しんで、悩み尽くすことが一番よ』



こちらの気持ちを瞬時に察した凪の母親が、温厚な笑みを浮かべる。




その眼差しに耐えられなくなって、視線を逸らしつつ手元のハンカチをポケットに仕舞う。




元の位置に、凪に気が付かれないように戻しておこうかとも思慮に居れたけれど。



今の自分にそれは必要不可欠なものだと思い、不謹慎ながらも持ち帰らせてもらうことにした。



『…………帰ります』

『そうね。お留守番ご苦労様。助かったわ~』



部屋を出ていく間際、閉じられていく扉の隙間から凪の寝顔が垣間見えた。



静かに寝息を立てているその姿に、どこか温かい気持ちになった。




玄関先に置いておいた鞄を肩に掛け、凪の母親に向かい合い小さく頭を下げる。



凪によく似た人懐こい満面の笑みを携えて、彼女が耳元に顔を寄せてくる。



『今度は、凪の彼氏として、訪問してくるのを心待ちにしているわ』

『…………か』

『彼氏よ~絶対にね!お友達だなんて、お姉さん家に上がらせないからね!』



未来を予言する言葉に苦笑を漏らしたけれど、自信に満ちたその顔に、どこか現実として成り立つ日が来る予感がした。





嘘のような凪の母親の言葉を叶えられる日は、それから間もないとある日のことだけれど。




それは、また別の話。