西山くんが不機嫌な理由






どう返答して良いのか分からずに、とりあえずバウムクーヘンを黙々と口に運ばせる。



幼い子供を見守るような優しい眼差しで、じいっと見詰めてくる視線にはどこか居心地の悪さを感じる。




躊躇いもなく真っ直ぐに相手を見据えるところは、何だか凪に似ている。



『西山くんは、凪のクラスメート?』



首を左右に振って否定する。



『あら、それじゃあ……委員会が一緒だったり?』



これもまた然り。



『むむ、ふたりはいつ知り合ったの?』

『…………1時間くらい、前』

『あらっ、そうだったの~』



あらあらあら~、と。



凪の母親が、口元に手を沿えて含み笑いをみせる。




答え方に不自然な点はなかったはずだけど。



疑問に思っていれば、突然目の前に人差し指を突き付けられる。




吃驚して、咄嗟の反射で後ろに退ける。



危うく口に含ませたばかりのバウムクーヘンが喉に詰まるところだった。




たった数十分前にも、同じようなやり取りを凪と交わした記憶が頭の片隅に残っている。




凪の母親はそんなこともお構いなしに、得意気な顔で口を開いた。



『いい?西山くん。お姉さんが良いこと教えてあげる』

『(…………お姉さん……)』



一人称に微かな疑念を抱くが、凪の母親は至極真面目な表情を保っていたため、黙って話の続きを聞くことにした。