床に落ちた絆創膏を全て拾い終えた凪が立ち上がる。
身長差もあり、見上げるような視線にはどこも可笑しくはない。
まじまじと凝視していれば、不思議そうに首を傾げる。
「西山くん?私、顔に何か付いてる?」
返事をする代わりに首を横に振って否定しつつ、頭の中で引っ掛かっていた疑問が解けた。
この前はお兄さんと呼んでいたのに対して、今はきちんと名前を使用している。
再び、凪の母親の言葉が思い返される。
『西山くんの名前はね、凪から聞いたのよ』
優雅な動作でバウムクーヘンを口に運びつつ、にっこり笑顔の凪の母親。
その言葉に違和感を覚える。
凪とは、確かに今日初めて知り合ったのだ。
故に、彼女が俺の名前、それ以前に存在を知っていたことは可笑しい。
学校が同じだということで、廊下ですれ違うことがあったり名字程度は把握していて不自然ではないが。
凪の母親は、下の名前まで知っていた。
こちらは向こうから名乗り出たから知っているけれど、俺は自分の名を自ら口にした覚えはない。
『ふふー、西山くん分かり易く動揺しちゃって~。戸惑う男の子ってか~わいい~。萌えるわ~』
『…………』
『だけどその反応……凪の恋人じゃあなかったのね』
あからさまに眉を垂れ下げてしょんぼりし始めた。
今更そんな事実どうだって良い気すらしてくる。
そんなことよりも先に、謎の答えを教えてほしい。
こちらの気持ちをいち早く察知した凪の母親は、故意に焦らすように手元の紅茶をゆっくり口に運ぶ。
この状況を楽しんでいるようにしか見えないのは、俺だけなのだろうか。
『西山くんって、周りから女心に疎いって言われない?』
紅茶の入ったカップを静かにテーブルに置き、悪戯に微笑む。
周りから言われるも何も、学校生活の中で全くと言っても良い程同級生と接していないのだ。

