西山くんが不機嫌な理由






「ああああぁぁ…っ」



悲哀の色を帯びた凪の声を耳に、視線を足元へ下げる。



ぱさり、床一面に散らばった絆創膏の山。




頭に降った物体の正体を掴めた。




ゆっくり顔を上げると、立ち尽くしたまま黙ってこちらを見ている凪がいた。



その手には、逆さに向けられた茶色の木箱を持っている。




以前中に入っていた物は、容易く見当がつく。



「…………凪」



小さく名前を呟くように呼べば、微かに目が左右に泳いだ。



心なしか顔も強張っている。




やはり、初対面のときに比べ明らかに態度が変わっている。



確かな疑念を胸に抱いたところで、突然凪の顔に笑みが浮かんだ。



「これはこれは、噂の西山くん!」

「…………」

「ごめんね。手が滑っちゃった」



舌を出しておどけたように笑ってみせつつ、屈みこんで落とした絆創膏を一枚一枚拾っては箱に入れていく。



交わった目線は、一瞬のうちにして途切れる。




足に乗っていた絆創膏を無言で差し出せば、こちらを見上げた凪がやんわりと頬を緩ませる。



「ありがとう」



向けられた笑顔は至って自然体で、裏がなくて。



多分、俺が最も望んでいた表情。




だけど、妙な胸騒ぎがして止まない。