教科担任の声に促され、渋々手元にある閉じたままの教科書の表紙を開く。
半ば逃げるように逸らした視線。
そのわずか10秒後にグラウンドで起きた出来事を、俺は知る由もない。
指示された範囲を一通り読み終え再び窓の外に目を移したとき、相変わらずうるさいくらいの喧噪は健在していた。
だけど、そこに存在した筈の凪の姿を確認することは出来なかった。
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6時限目になると、とうとう席に着いて大人しく授業を受けることさえも億劫に感じられてきた。
適当な理由を並べて保健室に行くと言って席から立ち上がれば、20代後半の英語科担任が二つ返事で許可を出す。
意味もなくほんのり頬を染め上げる女教師を一瞥し疑問を胸に抱きつつ、教室から踏み出した足は一直線に保健室へと向かっていた。
目的地に辿り着き、"保健医不在"のプレートを目にするも、軽くあしらいドアを開ける。
途端に鼻を突くは薬品の放つ独特の刺激臭。
あまりの匂いのきつさに顔を顰める。
と。
「わ、わ、わっ、お兄さん避けて!」
どこからかそう遠くない声に脳がいち早く反応するも、状況を把握してないがために身体はすぐに動き出さない。
視界の端に映り込んだのは、大袈裟に慌てた様子の凪。
その姿に驚く暇も与えられず、次の瞬間頭から数えきれないほど無数の、紙切れのような物体が降り掛かってきていた。