凪が大きく飛び跳ねつつ、クラスメートと笑顔でハイタッチを交わしている。試合で得点でも決めたのか。



授業そのものの本体と内容には全くの無関心と言っても過言ではない。




今の時点で原因不明ながらに興味をそそられるのは。



凪、ひとりだけ。




きらきら眩しいくらいの笑顔を周りに振り撒く凪の真っ直ぐな眼差しが、ほんの一瞬だけ、こちらに向かれた。



「…………っ」



口角が引き攣る。




凪が目を大きく見開いた視線の先には、紛れもない自分自身の姿がある。




何とも言い難い居心地の悪さに目を細める。



瞬時に顔を背けてしまえば済むことなのに、どことなく不自然さが目立ちそうで止める。




大して後ろめたいことはない、気恥ずかしがる理由も必要も一切存在しない。



だけど、どうしてか心臓がヒリヒリと痺れる。痒いような、くすぐったいような。




茫然とその場に立ち尽くしたまま、校舎の2階にある教室を見上げる凪の顔に、つい先程までの無垢な笑みは貼り付いていない。




遠く離れた位置からでは詳しい様子までは窺うことが出来ないけれど、その瞳には微かに困惑の色を孕ませている。



ふたりの距離は決して近くはないのに、周りには確かに沢山の生徒がうつらうつらと眠たそうに授業を受けているのに。




ふたりきりの空間が、そこにはあった。



「西山ー、教科書次の行から読めー」

「…………」

「西山翼ー、聞いてるかー」

「…………どこですか」