「凪ー、レシーブお願い」

「らじゃー!さあいつでも来い!」

「ボール行ったよー」

「よっしゃ任せとけっ」



肌寒さに身の毛がよだつ寒天下、ジャージの裾を捲り上げ構えのポーズを決め込んでいる。



見るからにひとり異彩を放つその姿に、自然と目が釘付けになっていた。




体育の授業中であろう、グラウンドから男と女の歓声が入り交じった賑やかな喧噪が、閉じた窓の隙間より漏れて届く。




中でも特に彼女の明るい声色が一際目立っている。




いや、違う。



もしかしたらごく単純なことに、俺自身が彼女の声を最も拾い取っているだけなのかもしれない。



「…………凪」



本当に小さく、消えゆきそうなくらい小さく微かに。



呟くそうにその名を呼ぶ。




当然のことながら凪がこちらの存在に気が付く筈もなく、ただの一方通行状態。



まあ、振り向いてもらおうだなんて全く考えに含まれていないけれど。




2日も経てばさすがに熱も下がるものだ。



両手を添えてバレーボールを弾き返す凪の元気そうな表情に、どこかで安堵を覚える。




眠気はいつの間にかどこ吹く風で、もの憂うわけでもなく、ひたすら無心に彼女の姿を目で追いかけ続ける。



そこに、明確とした理由は存在しない。





不意に、先日凪の母親から聞かされた話が頭の中を駆け巡る。



あの話を聞いたところで無関心の心境にさほど影響を及ぼすことはなかったけれど、ほんのささやかな動揺を伴ったことは確かで。




昨日今日知り合ったばかりだという異性の存在をここまで意識して休日を過ごしたことなど、今までにあったのだろうか。