腕に隠されて半分しか見えない顔を、さらに長い艶やかな前髪が邪魔をする。
お陰で西山くんの端正な顔が眺められないじゃないか。
近くに寄って、しゃがみ込んで西山くんの前髪に手を掛ける。
起こさないようにそうっと上げると、そこから垣間覗いたのは綺麗だとしかいいようのない顔。
いつも無表情だけれど、寝ているときだけは妙にその顔が柔らかく見えるから不思議だ。
元とはいえば、私はこの顔が好きで好きで仕方がなくて告白したんだよ。
今思わなくとも、西山くんにすごく失礼な事実である。
「ふふー。今は全部好きだけどね」
「げ、」
「え」
しまった。
背後から聞き慣れない声を耳にした途端にそう思った。
目の前にいる西山くんはまだ静かに寝息を立てている。
声のした方に振り返ると、見覚えのある女の子が3人。
教室の扉付近に立ってこちらを咎めるように見ていた。
険悪な表情から察するに、先程の独り言を聞かれていたようだ。
「ねぇ、勝手に他人のクラスに入らないでよ」
はたり、思い出した。
今私に敵意をむき出しに刺々しい口調の、3人の内真ん中に立っているリーダー格の女の子。
高校に入ったときから西山くんのこと狙っているとか、専ら噂の子だ。
要するに、西山くんのことが好きなのか。
確かに、人がいないとはいえ他の教室に入るのがいけないことくらいは分かってる。
だけど、そうでもしない限り西山くんに会えないことも事実であることに変わりはない。
「ちょっと。聞いてるの!?」
「き、聞こえてますとも」
「なら早く出てってよ!」
そんなに声を張り上げなくても十分聞こえてるから、突然癇癪を起こさないでほしい。
西山くんが気持ち良く眠ってるんだから、好きならそれくらい気遣うものではないのか。
「えっと、大きな声出すと西山くんが起きちゃうから…」
そう言い終わるや否や、彼女の顔が瞬く間に真っ赤に染まる。
その様子に呆気にとられていると、真ん中の子を先頭に、3人組が物凄い剣幕でこちらに歩いてきた。

