1階のリビングへと通されて、促されるがままにソファに腰を下ろす。
後から凪の母親がトレーにお茶の入ったコップと、お皿いっぱいのバウムクーヘンを乗せて運んでくる。
小さく頭を下げてお礼を示せば、意味が伝わったらしく微笑んで頷く。
「西山くん、で、合ってるのかな?」
「…………はい」
先程は凪の母親の迫力に気圧され、大して気に留めることもなかったけれど。
いくら女の勘は冴えるからといって、一発で見ず知らずの人間の名前を当てられるはずがない。
エスパーとか能力を携えているのなら、話はまた別だけど。
「うちの一人娘、どうよ?」
「…………は?」
「ポッキンアイスでテンション上昇しまくる子だけど、あれで高1なんだから困ったものよねえ」
「…………」
「あなたは凪のどこに惚れ込んで交際を申し込んだの?いやこんな部外者のおばさんに言いたくないのならふたりきりの秘密にしていても構わないけど。だけどやっぱりそこは保護者としては気になるというか~。あ、お茶もう一杯いかが?」
「…………どうも」
飲み干したコップに3度目のお茶を注いでもらいつつ、疑問は増えていくばかり。
第一に、まず何度も繰り返し主張するが凪とは今日が初対面で、付き合う以前の問題である。
第二に、仮に付き合っていたとして、何故にこちらから告白をしたかのような一方的な決めつけで話を進めているのか。
とりあえずは最初に交際自体を否定しようと試みるものの、凪の母親にいつ切り出せば良いのか分からない。
「はい、どうぞ~」
新しく淹れたお茶を差し出しつつ、「それで?」どこか企み顔をこちらに向けてくる。
「うちの凪とは、どこまでいったの?」
笑いを押し殺した声色に、危うく口に含ませたお茶を吹き出しそうになった。