「彼氏くん名前は?ああ待って言わないで!私が当ててみせるわ。んー顔は瑛太似ね。あら困っている顔は向井理ね。あらあら鬱陶しそうな顔は小栗旬だわ。そこに今お母さんマイブームの松坂桃李を放り込んでみましょう。……分かった!あなたずばり西山翼くんでしょう!」

「…………」

「その呆気にとられた顔は見事的中ね。おばさん世代のアラフォーもまだまだ捨てたものじゃなかったわ~」



両手を合わせてお祈りポーズをとる凪の母親の前で、どのタイミングでどう口を挟んで良いのか分からずに。



両腕には完全に意識を落とした凪を抱きかかえたままその場に立ち尽くす。




おおよそ5分前後経過し、ようやく少し落ち着いてきた凪の母親のマシンガントーク。



「あらっ、ごめんなさいね~。さっ上がって上がって」

「…………俺、帰、」

「そういえば今丁度おやつの時間なの~。今日は極上のバームクーヘンよ~。西山くんもいかが?」

「…………おじゃまします」

「はいどうぞ~」



ごく一般的な2階建ての一軒家。




凪の母親の後ろに誘導されるがまま、凪を抱いて2階の突き当たりにある部屋の中に足を踏み入れる。




第一印象はピンク。




いかにも女を強調する象徴と言っても過言ではない内装。



壁紙には薄い淡いピンク色。水玉模様のカーテンも勿論白とピンクのグラデーション。



真っ白いシングルベッドには、埋もれるほどの沢山なぬいぐるみが置かれていて、むしろ凪ははいつもこのベッドで眠れるスペースがあるのかと疑問が浮かんだ。



とりあえず凪の母親に促され、ベッドからはみ出さないよう凪を静かに横に寝かせる。



「さて、西山くん」



時が経つのを忘れてその寝顔に見入っていれば、後ろから声が掛かり振り返る。



「ちょっと、下でお話しましょうか」



柔らかい笑顔を浮かべた凪の母親が、やんわりとそう言った。