「家に帰って早く洗濯してもらわなくちゃ、匂いが染み付いちゃうね」
返事を返すことも、笑顔で頷くことも滅多にしない俺に向かって、どうして懲りずに何度も話し掛けてこようと思えるのか。
にかにか白い八重歯を見せて活発に笑ってみせる女は、先程までの落ち込んだ雰囲気を微塵も纏ってはいない。
別に、人と話すことが億劫に思えているわけではない。いや多少は心のどこかで思っているけれど。
大した人見知りなわけでもなく、緊張して言葉がつっかえてしまうこともない。
今まで関わってきた人は皆俺のことを無口無関心無愛想だなんて言うけれど、確かにそれも一理当て嵌っているのかもしれない。
だけど、無口だからといって、必ずしもひとりでいたいわけではない。
友達が欲しくないわけではないし、何事にも関心を示さないなんて有り得ない。
誰かに、屈託のない笑顔を自分に向けて欲しいなんて、思わないはずがない。
「お兄さん今度借りた10円きちんと返すね!ついでに柏餅もおまけについてきます!」
いつの間にか次会う予定を企てていることに、この女は自分で気が付いているのだろうか。
内心過度な天然(果たして天然で片付けられる性格かは知らない)に溜め息を漏らしつつ、どこかまた会うことを嫌がっていない自分自身に驚いた。
むしろ、もっとこの女のことを知りたいなんて考えていた自分には、隠せないほどの戸惑いが生じた。

