「今度は、ちゃんと柏餅買うから、お兄さん機嫌直して?」
しゅんと耳の垂れ下がったうさぎのように顔を俯かせる。
感情起伏の激しい女だな。
加えて"俺の無口な理由=不機嫌だから"なんていう完全勘違いな方程式まで成り立っているらしい。
視線を下げると、ひとり寂しげな表情でおもちを上唇と下唇でくわえ、伸ばしつつあむあむ食べている。
まさかとは思うけれど、おもちは伸ばして食べなければいけないと信じて疑わなさそうだ。
陽気な態度から一変、急激に明るい声色で話し掛けてこなくなった初対面のふたりの間には、気が付いたら距離ができはじめていた。
そもそも初めて会った男に、どうして警戒心ひとつ心に抱くことなく無邪気に笑い掛けることが出来るのだろうか。
心底不思議でならない。
だけど、今、言えることといえば。
「…………アイス」
「え?」
「…………アイス、垂れてる」
結局女の食べ掛けのアイスに口を付けることは一切なく、手元にはひんやりとした冷水の感触が留めることなく流れていく。
アイスを放っておけば、氷が溶けてしまわないわけがない。
「おおっ、こりゃあ大変だ!」
女は溶けたアイスによって濡れていく手を見て声を上げ、いそいそとポケットの中からハンカチを取り出し、丁寧に拭き取る。
無駄に真剣な表情の女を上から見下ろしつつ、無意識のうちに目が奪われていたことに気が付いた。
「ぬっ、なんかハンカチから甘い匂いがするよ!どうしてだろう!ほれ、お兄さんも嗅いでみて!」
「…………」
「うぬう、…分かった!アイスがイチゴバニラだったからだ!」
いかにも得意気な顔で鼻を鳴らす。
数分間ぶりに見せた明るい笑顔が、やけに懐かしく感じられた。

