それもよほどツボに嵌った様子で、目の縁にはうっすらと涙が溜まっている。
それはもう、男の子らしい豪快な笑い方。
西山くんが声に出して笑うところは見たことないけれど、もし笑ったらこんな感じなのかな。
思い返せば、最後に西山くんが小さく口角を上げて笑うところを見たのはいつのことか。
限りなく昔のような気がする。
さらに深く考えてみれば、西山くんの怒った顔や嬉しそうな顔も見たことがない。
あるといったら、呆れている顔くらい。
ちなみに呆れているときの表情とは、西山くんが私に対して遠い目をするときである。
「(西山くんの他の顔も見てみたいなあ)」
「そうなんだ?」
いつの間にか笑い止んでいた山城くんからの問いにこっくりと頷く。
どうして私の思っていることが分かったの、なんて野暮な質問はもうよしておこう。
「……呉羽ちゃん。俺にいい考えがあるんだけど」
「え?」
「上手くいったら、すごいもの見れちゃうかもよ?」
自信に満ちた顔でそう言う山城くんに、ごくりと息を呑む。
なんだかよく分からないけど、とりあえずなんかすごいものが見れるんだ。
そう考えると、無意識に身体がウズウズしてくる。
「どうする?」
私がそれにどう答えたのかは、ご想像にお任せしよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
待ちに待ったお昼休み。
隣のクラスに誰もいないのを確かめたあと、こっそりと教室に足を忍ばせる。
窓際の一番前の席に、西山くんが机に顔を伏せて静かに寝息を立てていた。

