あまり深く考えずに何度も大きく頷いてみせると、鋭い瞳に一瞥された。
心なしか、今私睨まれた?
「…………他の男と話さないで」
「え、はい」
「…………目を合わせないで」
「はい」
「…………無視して」
「お、オーケイ」
安心してくれ西山くん。
なんせ私、昨日までクラスメートである山城くんの存在すら知らなかったのだから。
なんて胸を張って自慢出来そうにない雰囲気だったので、言葉を呑みこんでおいた。
「…………凪の卵焼き、すき」
「え、えと、ありがとう嬉しい」
「…………メイク似合ってる」
「そ、そうかね?照れるなもう」
「…………もうしてこないで」
「え?なんか矛盾してるよね西山くん」
「…………嫌ならいい」
「もう一生してきません!」
口先を尖らせて視線を逸らしたので慌てて声を上げると、満足そうに頷いた。
無表情のままだから、満足したかどうかは知らないけれど。
「…………俺だけ」
「え?」
「…………俺だけ、見てよ」
「もちろんですとも!え?何お許し頂いちゃったからこれから見放題だよね!?ひゃっほーう!」
「…………今の取り消、」
「うっそうそうそ取り乱しましたごめんなさい」
再度土下座の体制に入ろうとしたらすかさず西山くんの手によって止められた。
腕を引き上げられて、持ち上げられるがままに立たされる。
西山くんも一緒に立ち上がる形になって、目線がぐーんと高くなる。
先程まではお互い座り込んでいたからこそ同じ目線だったんだと納得する。
窓から差し込む日光と長い前髪に邪魔されて、西山くんの顔がよく見えない。
めいっぱい背伸びをしつつ、西山くんの額の髪を横に流す。
それでもなお細かな表情までは窺えなかったけれど、とても優しい眼差しを感じる。
口角はほんの少し上がっていた。
「…………凪。お願い」
「うん」
「…………俺だけを、好きでいて」
「当たり前だよ!ずっと大好き!」
大きく歯を見せるように笑えば、次の瞬間には心地よい温もりに身体ごと包まれていた。
先程の力任せとは打って変わって丁重に、壊れ物にでも触れるかのように背中に手を回される。
どこか物足りない気分になってしまうけれど、今の私にはこれだけで十分満たされる。

