西山くんが不機嫌な理由






私が普通の休み時間に会いに行ったりなんかした時には、きっと周りからの視線が痛いくらいに背中に突き刺さるだろう。



そもそも、西山くんを呼んだところでわざわざ廊下にまで来るのかさえ微妙な所だけれど。



「(いっそ、西山くんが女子にモテなくなっちゃえばいいのに)」

「なんで?」

「え?」



自分の教室に入った後、席に着いて物思いに浸っていたところ、突然横から声を掛けられた。



振り向くと、見覚えのある男が隣の席に座って頬杖を付いてこちらを見ていた。


見覚えがあるということは、同じクラスであろう。



「えーと……田中くん?」

「うん俺山城ね。名前一文字も合ってないよ」

「聞いたことある名前だね!」

「同じクラスだからね。もう半年以上も」



彼はそう言い終えると共に、突然大声で笑い始めた。


訳が分からずきょとんとしていると、山城くんは大きく息を吐いた後顔を向き合ってきた。



やはりよく分からないけれど、とりあえず負けじと見返してみる。



「ほんっと面白いんだね。呉羽ちゃん」

「なんで私の名前知ってるの?はっ、もももしや私に気が!」

「気もなにも、同じクラスだからね」

「あぁ、なるほど納得」



我ながら結構自分の頭はどこかネジが緩んでいるなあとつくづく思う。


そもそも、クラスメート全員の名前と顔を覚えているのは当たり前のことだというのに。



「(顔すらうろ覚えなんて、どれだけ記憶力ないんだ自分!)」

「それだけ西山くんに夢中ってことなんじゃない?」

「おぉそっか!」

「うん」



先程からさも当たり前のように、私の考えを全部見通した上で言葉を掛けてくる。


すごいなこの人エスパーかな。



「すごいね山村くん!」

「呉羽ちゃんそのまま口に出してたからね。そして俺は山城ね」

「口に出してた?」

「さっき『西山くんがモテなくなっちゃえばいいのにー』て独り言呟いてたよ。自覚してなかったの?」



話している途中で急に女の子の声真似をする山城くん。


確かにそんなこと思ってたな。



「(考え過ぎるあまり、思わず言葉を発してしまったのかね…)」

「そうみたいだね」

「はっ、また口に出してた!?」



慌てる私の質問に答える前に、山城くんはまた笑い出す。