「呉羽ちゃん、鏡で自分の顔見た?」
首を左右に振り否定を示すと、山城くんがにっこり人懐こい笑顔を作る。
「すごく綺麗だよ。呉羽ちゃんは元々整った顔付きだけど、メイクでもっと栄えるんだね」
「…は、える?」
言葉の漢字を思い出せずに頭を悩ませていると、ふっと山城くんの手が伸びてきたと思ったら、次の瞬間には頬をなぞるように触れてきていた。
無意識の反応で身震いする。
「や、ややや山城くん!?」
ドキドキしたり、意識して顔が紅潮することはない。
だけど、突然の行動の意図が分からず慌てふためく。
教室にいるクラスメートの視線が背中に突き刺さる。
山城くんはそんなことはお構いなしのようで、頬に這わせていた手を下に移動させていく。
やがて首元で止まり、ひとつの箇所を集中して擦る。
山城くんの顔はあくまで悪戯に細く笑んでいて、背筋に寒気が走る。
なに?私の反応を楽しんでいるのか?
まさか、私の協力をするふりして隙を見て襲ってしまおうと思っているのね!?
「せ、セクハラ反対!」
勢い良く席から立ち上がって両手でバリアを張ろうとしたところ、足元のバランスが崩れて思うようにいかず。
そのままくるん、床に頭を強く打ちつけた。
「い、痛いったあーっ!」
後頭部に襲い掛かる鋭い痛みに涙を滲ませる。
「あははっ、呉羽ちゃん面白いね」
どこでどうツボに嵌ったのか、爆笑しつつ上から傍観するだけで手を差し出そうともしてこない山城くんに下から恨みを込めた視線を投げつける。
周りの生徒もくすくす苦笑いを零すか、見て見ぬふりをしつつもしっかり笑っている。
「だ、だれのせいでこんな恥ずかしい目に遭ったと思ってんのさ!」
「え?俺?」
心底驚く表情を見せる山城くんに、舌を出してあっかんべーをしてみせる。

