恐る恐るもう1度真横に視線を移してみる。
そして確信した。
西山くんが堂々と隠さずにこちらを凝視している。
横目でさりげなくなんてものじゃない、顔ごとばっちりこちらに向いているではないか。
そのまま歩いてたら電柱にぶつかっちゃうよ!なんて言える雰囲気でもない。
仮に言ったところで、無視される可能性のほうがはるかに大きいことも分かっている。
やはり顔に何か付いてるのか。
それともあれか、慣れない化粧の故に可笑しく見えるのかな。あぁきっとそれだ。
考えれば考える程羞恥心が沸いてきて、せめてものカモフラージュと両手で顔を覆う。
しかしそれでは視覚に障害があると気が付いたのは、足元の小石に躓いて危うく転倒しそうになったとき。
寸前で持ち応えて、さすがに学習し顔から手を離した。
「…………凪」
「うん分かってるよ西山くん!顔が酷いことになってるんでしょう分かってる。この世のものとは思えない顔の仕上がりに驚いている気持ちは分からなくもないけども、出来れば見なかったふりしてくれれば助かるかなぁなんて」
「…………顔、」
「うんだからそれは私の手先不器用なあまりの残念な結果ということで。ひとつ今日の私の顔は見なかったことにしてほしいというか。ていうかそもそもそんなに見つめられちゃったら顔が火照るのを飛び越して爆発しちゃいそうだから」
しまったと、口を閉ざした西山くんに思った。
我ながらなんというマシンガントーク。
一体いつ息継ぎしてたんだ。
あまりにも恥ずかしさを誤魔化すことに夢中になり過ぎた故に、変な言葉口走ってなかったよね。
なんて、後悔したってもう遅い。
普段私には目もくれない西山くんに、顔に穴が空くくらい凝視されるなんて。
そんなに恐ろしいことになっているのか。
慌てて鏡で確認しようにも、どうやら鏡の入ったポーチごと家に忘れてきたようで今手元にはない。
絶望感に満たされ横を盗み見すると、もう西山くんの視線はこちらに向けられてはいなかった。
安堵すると共に、少し残念な気持ちにもなった。
と。
隣を歩いていた西山くんの足が突然止まった。
それに気が付いて、立ち止まって西山くんを振り返る。