大切なものに触れるかのように、丁寧にその指を滑らせている。



「や、山城くん?」

「本当に嬉しかったんだね」

「うん。どうして?」

「呉羽ちゃん。泣いてるから」



どうやら嬉しさのあまり涙まで零れ落ちていたようだ。


どうやら先程の例えは誇大表現ではなかったらしい。



これが嬉し泣きっていうのかな。



嬉しくて泣くのなんて、私初めてだ。


なんて、そんな自分に感心してみる。



山城くんを見るとなんだか心配そうな表情。


もしかして嫌だと思って泣いてると思ってるのかな。



「あ、あのね。これは嬉しすぎて泣いてるの」

「うん。知ってる」

「だって西山くん。初めて私のこと褒めてくれたの」

「うん」

「初めて私に、優しく微笑んでくれたの」

「うん。ヤキモキ大作戦その①大成功だね」

「ありがとう山下くん。感謝してます」

「もうスルーしちゃってもいいかな名前に関しては」



正直に言えば、教室での山城くんの言動と、その後の西山くんの言動に今でも全く繋がりが感じられないけれど。



それでも、それでも山城くんに感謝せずにはいられないこの得体の知れない気持ちはなんなんだろう。


自分でもよく分からない、誰かに教えて欲しいくらいだ。



あのとき、私の作ったお弁当が好きだと言ってくれたとき。



本当の本当にたった一瞬のことだったけれど、確かに西山くんは笑い掛けてくれた。


鼻で笑うとかそういうのではなかった。



「それにしても、西山くん急にどうしたんだろう?今日はいつもより近くに感じられるよ」

「んー。呉羽ちゃんの愛のパワーが伝わっていってるんじゃない?」

「そうかな?そうだといいな」

「きっとそうだよ」



いつの間にか山城くんの手は頬から離れていて。


先程まではお母さんかのように優しかった眼差しが、今は何かを企んでいるかのような悪い顔つきになってきている。



お、恐ろしい予感がするよ西山くん!


なんて思っていたところ、見事その予感は的中した。



唐突に山城くんが右手の人差指を私の鼻先に突き付けてきたのだ。


いきなりすぎて鼻でもつぶされるのかと思った。



「さて」そう言葉を切り出した山城くんの顔を見て思わずごくり、息を呑んだ。