「だけどやっぱり言う!きちんと自分の思いを真っ直ぐに伝える!伝えるから、西山くん、聞いてくれますか?」
膝の上につくった握り拳を強く堅めて、意を決したように真剣な眼差しで射抜いてくる。
静粛に包まれた威圧感に気圧されつつ、曖昧に頷いてみせる。
こちらの反応を確かめて、大きく深呼吸をひとつ。
顔から垂れ下がった横髪を耳に掛けて、緊迫した表情で見据える。
「西山くん、好きです。ずっと前から、ずっと見てました」
「…………」
「西山くんの、顔が好き。感情を表に出してないけど、その奥に隠れた小さな優しさが好き」
「…………」
「無口だけど、どこか温かい目をしているところが好き。私が名前を呼ぶ度に、顔を上げてくれるところが好き」
羞恥心に敗れることなく、一瞬たりとも絡み合った視線を逸らすことなく。
ゆっくり丁寧に、秘めた想いを言葉にして紡いでいく凪をじっと見詰める。
笑ったときに垣間見える幼い子供のあどけなさは一切なく、ずっと大人びて見えるのは気のせいか。
口を開けば聞いているこちらが逃げ出したくなることばかり言うけれど、その声が心地良いと感じている自分がいる。
「私は西山くんの外見しかしらないけど、きっと内面はもっとすごく素敵な人なんだと思う!」
「…………」
「私知りたい。西山くんの格好良いところとか、格好悪いところとか」
「…………」
「言葉はいらないよ、綺麗ごとかもしれないけど。だけど、本当にいらない」
「…………」
「いらないから、西山くんの側にいたい」
不意に視線を下げれば、視界に入るは小刻みに震えた小さな手。
顔を上げればすっかり赤面した凪の顔。
「私と、付き合ってください!」
強気な言葉に反し、今にも泣き出しそうなその表情を見て、抑えていた理性とか理論とか跡形なく崩れ去った。
堪らなく手を伸ばして凪の背中に回し、両手に強く力を込める。
無意識のうちに笑みが零れた。
思わず声を上げるまではいかなくとも、きっと生きてきた中で一番笑っていた。
凪には当然、俺の顔は見えないけれど。

