西山くんが不機嫌な理由






「西山くん、怒ってる?」



恐る恐るといった感じで尋ねてくる凪に、首を横に振って応える。



それを見て、微かに安堵の色を見せる。



「それでね、話はまだ続くのだけども」



改めてその場に座り直し、話を再開する。




手元の桜餅は気が付けばその姿を忽然と消し去っていて、形として残されたのはじわじわ染まる甘味だった。



貼り付く慣れない味に舌を出して、再度顔を顰める。



「西山くんにとっては私なんてほぼ初対面みたいなものだったじゃんか」

「…………」

「この前駄菓子屋さんで会ったのは本当に偶然だったけど、西山くん私のこと覚えてるような素振り見せなかったし」



全くもって図星を突かれているため、うんともすんとも言い難い。



凪の真っ直ぐな視線から逃れるようにして俯く。



「少しだけ、すごい短い時間だったけど、西山くんの側にいると、なんだかすごく心が温かくなった。もしかしたら熱のせいだったかもだけど」



若干一言余計な言葉が混じっているけれど、何も聞こえなかったふりをして受け流す。



「そのとき決めたんだ。今度会ったら絶対に告白しようって!」



凪のその言葉に、脳裏に思い返されるは1週間前の保健室での出来事。



凪は、その場の状況で突発的に行動に出たのではなく、事前から決心していたことだったのか。



「彼女になりたい願望は皆無だって言ったけど、本当はあったんだ。本当に、ちょっとだけね」

「…………」

「だけど、いきなり過ぎて西山くんに鬱陶しがられるかもとか。図々しいなんて思われたくないから言わなかった、言えなかったんだ!」



やや自棄になりつつ言葉を紡ぐ凪に、そうっと視線を合わせる。



話し口調はどこか投げやりな感じが含まれていたけれど、表情は至って真面目に徹したもので。



「だって、好きなんだ。そんな人に、自分の悪い印象なんて作ってもらいたくないじゃんか」



おどけて笑う凪は、気恥ずかしそうに見えて、すごく泣きたそうにも見える。



その表情を目の当りにしていれば、釣られてこちらも苦々しい気持ちになってきた。