倉井先生の学校内におけるプライベートルーム。美術準備室。
扉が締まるのを確認して、僕は先生に向きなおった。
「会いたかった」
そう言って、近づいた。
先生は無言のまま、口角を引き締めた。
我慢するときみたいだと思った。
我慢させたくないとも思った。
この強固な砦を崩す自信はない。
けど、僕の特攻で落石のひとつくらいあったっていいだろ?
逃げられてしまいそうで怖かった。
ゆっくりと両腕をのばして抱きしめた。
倉井先生の匂いがした。
倉井先生は、逃れようと思えばできた。
なのに、そのままじっとしていた。
静かに静かに息をしていた。
僕は先生とお腹のなかの子供ふたりぶんの呼吸を聴くようなつもりで耳を澄まし、目を閉じた。
先生はとても温かかった。
その温かさに、僕は癒された。
自然とため息がこぼれた。
瞬間、背中に先生の手を感じた。
僕の心臓は馬鹿みたいに跳ねた。
「あの、さ」
恋人同士じゃない。
背中にまわされた手はただの気まぐれで、僕の片想いなのかもしれない。
しかも先生と生徒。
自信なさそうな物言いはよそう、と思いなおした。
流されるだけだった先生が動いた――僕にとっては、言葉にできないくらいの出来事だ。
この恋が叶わないなんて、そんなのは嘘だ。
まだわからないよ。
「僕は待つよ、先生」
離れがたいけど、伏せている顔を起こさないと先生の顔が見られないから少しだけ距離を取って、その目を覗きこんで、僕のなかのスイッチを入れる。
「先生が僕を選んでくれるまで、ずっと待つから」
扉が締まるのを確認して、僕は先生に向きなおった。
「会いたかった」
そう言って、近づいた。
先生は無言のまま、口角を引き締めた。
我慢するときみたいだと思った。
我慢させたくないとも思った。
この強固な砦を崩す自信はない。
けど、僕の特攻で落石のひとつくらいあったっていいだろ?
逃げられてしまいそうで怖かった。
ゆっくりと両腕をのばして抱きしめた。
倉井先生の匂いがした。
倉井先生は、逃れようと思えばできた。
なのに、そのままじっとしていた。
静かに静かに息をしていた。
僕は先生とお腹のなかの子供ふたりぶんの呼吸を聴くようなつもりで耳を澄まし、目を閉じた。
先生はとても温かかった。
その温かさに、僕は癒された。
自然とため息がこぼれた。
瞬間、背中に先生の手を感じた。
僕の心臓は馬鹿みたいに跳ねた。
「あの、さ」
恋人同士じゃない。
背中にまわされた手はただの気まぐれで、僕の片想いなのかもしれない。
しかも先生と生徒。
自信なさそうな物言いはよそう、と思いなおした。
流されるだけだった先生が動いた――僕にとっては、言葉にできないくらいの出来事だ。
この恋が叶わないなんて、そんなのは嘘だ。
まだわからないよ。
「僕は待つよ、先生」
離れがたいけど、伏せている顔を起こさないと先生の顔が見られないから少しだけ距離を取って、その目を覗きこんで、僕のなかのスイッチを入れる。
「先生が僕を選んでくれるまで、ずっと待つから」


