空には気弱に輝く星。教科書にも載らないような、かすかな光。僕の存在も、そんなものなのかもしれない。
 カンちゃんは僕と違って優秀だから、県下有数の進学校へいくらしい。『らしい』というのも、変な話だ。これだけ行動をともにしていながら、間近に迫りくる未来を語りあったことがない。だいたい想像つく。波乱なんて、そうそうあるもんじゃない。
「ハルはやっぱ、二瓶東(にへいひがし)にすんの?」
 カンちゃんが聞いた。
『二瓶東』とは、二瓶東高校のことだ。この近辺ではレベルは下のほう。授業が変則カリキュラムで、女子の制服がかわいいと評判だ。
 でも制服なんかどうだっていい。
 化粧に1時間かける女子高生と机を並べ、彼女らと同じことを学ぶなんて、今の僕には地球の未来くらい想像がつかない。
「行きたくないけど、しかたないよ。僕もカンちゃんみたいに頭がよかったらなあ」
「そのことだけどな」
 そのこととはどのことなのか。引退したとはいえ、柔道部の猛者がなに煮え切らないことを言っているんだか。
 ココアの缶を欄干に置いて、カンちゃんは僕を見つめた。

「おれがもし、高遠(たかとお)あたりにランク落としたら、ハルも来るか?」
 びっくりした。
 高遠っていったら、カンちゃんの第一志望の2ランクくらい下だ。この辺からいちばん近くて、僕の家から歩いて15分の公立高校。部活動に熱心なところだ。
「カンちゃんはやっぱ、明和代(めいわだい)? あそこって、柔道部ないのか?」
「ない。だから迷っている」
「そうかあ」
 カンちゃんの両親はカンちゃんに期待しているからな。なまじ将来性が(って、高校進学の時点でそういう話をするのもなんだけど)あると、こういうときプレッシャーだよな。
 ま、これがフツーの家族のありようなのかもな。
 僕は言った。
「もしカンちゃんと僕が高遠なんかに行ったらさ、きっと肉じゃがとかおでんとか、食えなくなるね」
「あん?」
「僕はカンちゃんの母ちゃんにいろいろお世話になっているからな。今日だって、かぼちゃの煮物をもらったし。そういうことがなくなるよ。おばさんに恨まれるから。おばさん、『うちの克典(かつのり)が落ちこぼれた。悪い友達を持ったもんだ』って、言うよ」
 エリートにはエリートの道を。一般人は一般人らしく。
 それでいいじゃないか。手に手を取って、道を外れることはない。