僕は箸を止めた。台に置き、おばさんに向きなおった。首を横に振った。

「僕の傷はほっといても治るからいいよ。カンちゃんの」
 続く言葉を探した。うまく見つけられなかった。

「カンちゃんの傷は、直しがきかないから。停学なんて、こんな巻き込みかたは……。僕、さっきからなに言ってんだろうね」

 それでもおばさんは、ほほえんでくれた。頷いてくれた。

「ぶつかり合ったのが今でよかったよ。うちの克典も腕力しかないからねえ。強くなるなんていってみたって、結局このざまなんだよ。根性なしさ」
 ちらっと背後を振り返りながら、おばさんは疲れたような声で言った。

「部屋にこもることしかできないのさ。春都くんにはいろいろ迷惑かけっぱなしだけど、これからもつきあってやってくれないかい?」


 おばさんは僕を責めなかったし、僕に謝ることもなかった。
 僕のケガを心配したけど、殴り合いの原因については聞いてこなかった。
 カンちゃんから聞かされているふうには見えないし、学校側から説明があったとも思えない。

 食器を台所に運ぶのを手伝いながら、そのあたりのことを尋ねてみたけど、男の子だし所詮子供のけんかだから、なんていう返事しか返ってこなかった。

 店に出ているからなにかあったら呼んでくれなんておばさんに言われて、僕はカンちゃんの部屋に行くことにした。

 原因を正確に把握しているのは、僕とカンちゃんだけ。
 もしかしたら、倉井先生もおぼろげになにかをつかんでいるかもしれない。


 カンちゃんはベッドに腰かけていた。
 こめかみを押さえるようにしていた手を離し、顔をあげた。

「なあ。おれ、ハルの携帯にメールしといたんだけど、見た?」
「見てない」
「じゃ、見て」
「うん」

 僕は壁際に追いやられた座布団をたぐり寄せ、足を放り出すようにして座った。 
 パーカーのポケットの携帯をつかみ、開いた。
 メール送信者を確かめ、カンちゃんのほうをちらっと見た。

 カンちゃんは緊張の面持ちで僕を見つめていた。
 
 送られた7通のメールを読めば、カンちゃんの考えを知ることができる。そう思ったら、僕までどきどきしてきた。

 毎日顔をあわせている友達からのシリアスなメールなんて、そうそう読めるものじゃない。