母が出勤するのを見送ってから、携帯でカンちゃんに協力要請した。てきぱきと画材や資料をまとめていると、かぼちゃの煮つけを携えて、わが心の友はやってきた。バイ・バイシクル。
「家出でもすんの?」
「そうじゃない。本拠地移転だ」
「は?」
荷物の半分をまかせた。絵の具や絵筆、スケッチブック。僕は描きかけのキャンバスやオイルといった、取り扱い注意のものばかりを自分の自転車にくくりつける。安全第一。カンちゃんの走行は早いが揺れる。
目的地は夜の学校。夜の美術準備室。
特別教室棟の窓のひとつは鍵がかからないので、そこから侵入する。内履を取りにいっている余裕はない。時刻は9時40分。先生がいそうでいない、微妙な時間。
「学校の怪談の実地調査かよ」
「倉井先生似の幽霊に限り、遭遇を許す」
小声でごちゃごちゃ言いながら、何事もなく任務遂行。迅速に撤収。——あっけない。スリルのかけらもない探険だった。
カンちゃん家の手前の自販機で、温かいココアを買った。
「なんかさ、なんもなさすぎて、つまんねえよな」
石橋に腰掛けて、カンちゃんがつぶやく。僕もまねをする。
身長差10センチ体重差20キロの僕らは、暗闇のなか、兄弟に見えるかもしれない。小さいほうが僕。
「あるよ。お受験」
「ぶは。ハル、それ本気で言ってんの?」
「うん。受験があるから、なにもかもがつまらなくなる」
「家出でもすんの?」
「そうじゃない。本拠地移転だ」
「は?」
荷物の半分をまかせた。絵の具や絵筆、スケッチブック。僕は描きかけのキャンバスやオイルといった、取り扱い注意のものばかりを自分の自転車にくくりつける。安全第一。カンちゃんの走行は早いが揺れる。
目的地は夜の学校。夜の美術準備室。
特別教室棟の窓のひとつは鍵がかからないので、そこから侵入する。内履を取りにいっている余裕はない。時刻は9時40分。先生がいそうでいない、微妙な時間。
「学校の怪談の実地調査かよ」
「倉井先生似の幽霊に限り、遭遇を許す」
小声でごちゃごちゃ言いながら、何事もなく任務遂行。迅速に撤収。——あっけない。スリルのかけらもない探険だった。
カンちゃん家の手前の自販機で、温かいココアを買った。
「なんかさ、なんもなさすぎて、つまんねえよな」
石橋に腰掛けて、カンちゃんがつぶやく。僕もまねをする。
身長差10センチ体重差20キロの僕らは、暗闇のなか、兄弟に見えるかもしれない。小さいほうが僕。
「あるよ。お受験」
「ぶは。ハル、それ本気で言ってんの?」
「うん。受験があるから、なにもかもがつまらなくなる」


