『歳を考えろよ』とツッ込むのもばかばかしいくらいに若づくりをした母が、アニメ声優張りのきゃぴきゃぴ声で、自分の息子と同い歳のアイドルの歌を熱唱していた。しかも振りつき。それもこれも日課だから、やめさせることを僕はやめている。

 僕の家はかなり変わっている。
 母専用カラオケボックスがある。父専用暗室がある。僕専用アトリエがある。
 それぞれが得意分野の部屋を持っていて、だからというわけではないけれど、家族3人がそろうことがない。
 父は365日中360日くらい、国内海外問わず旅をしていて、写真を撮っている。知るひとぞ知る(らしいよ)フリーのカメラマン。
 そんな父が帰ってくるのは、狙いすましたかのように、いつも夜だ。母は接客の真っ最中だから、当然会えない。
 僕がふたりの連絡役をつとめている。

「美耶子サン(母だ)最近、フラワーアレンジメント教室に通っているんだ。そこに活けてあるのがそうだよ」
「父さんが昨夜帰ってきたよ。無精ひげがボーボーだった。僕に進路をどうするのか聞いてきた」
 するとふたりは言うんだ。『たまには電話ぐらいすればいいのに』って。
 ばかだよな。それは僕のせりふだっつーの。