石黒からは、だいたい想像通りの説明を聞かされた。
母さんから学校へ電話がいって、カンちゃんからも僕んちに問い合わせがあって、学校から倉井先生のアパートに電話がいって……。
家に帰ったら、僕は母さんになんて言えばいいんだろう。
そんなことを考えながら、街頭の明かりを頼りに自転車の鍵を外していると、石黒の声が降ってきた。
「倉井先生と同じ匂いがするな」
「じゃあシャンプーがおんなじなんじゃないですか? 香水なんか、僕はつけてないから」
石黒は香水の名前と思しき単語を口にした。
なんで男のあんたがそんなもん詳しいんだよ。
僕は母さんから見せてもらったことがあるから、知ってるけど。
いつもの僕なら、ここでおとなしく引き下がったんだろうけど、今日の僕は違った。
「いくら無愛想な倉井先生だって、お客が来ればコーヒーぐらい飲んでいけって言うだろ」
石黒は無言だった。
鍵が外れた。
サドルにまたがらずにすぐにでも地面を蹴って、行ってしまいたかった。
けど、思い直した。
「どうした?」
「忘れ物」
どこまでも強気な僕。
階段一段飛ばしで駆け上がり、202号室のドアを叩いて、住人に再会した。
顔を見るなり、僕は言った。
「すげえむかつくこと言われたんで、なんとかしてもいいですか?」
答えなんかいらない。
僕は欲しかった唇をさっさと奪い、耳元でぼそりと告げた。
「またな」
石黒にはさよならも言わなかった。
振り切るように、自転車のペダルをめいっぱいこいだ。
してやったり! っていう笑い顔を、見られるわけにはいかなかったから!
母さんから学校へ電話がいって、カンちゃんからも僕んちに問い合わせがあって、学校から倉井先生のアパートに電話がいって……。
家に帰ったら、僕は母さんになんて言えばいいんだろう。
そんなことを考えながら、街頭の明かりを頼りに自転車の鍵を外していると、石黒の声が降ってきた。
「倉井先生と同じ匂いがするな」
「じゃあシャンプーがおんなじなんじゃないですか? 香水なんか、僕はつけてないから」
石黒は香水の名前と思しき単語を口にした。
なんで男のあんたがそんなもん詳しいんだよ。
僕は母さんから見せてもらったことがあるから、知ってるけど。
いつもの僕なら、ここでおとなしく引き下がったんだろうけど、今日の僕は違った。
「いくら無愛想な倉井先生だって、お客が来ればコーヒーぐらい飲んでいけって言うだろ」
石黒は無言だった。
鍵が外れた。
サドルにまたがらずにすぐにでも地面を蹴って、行ってしまいたかった。
けど、思い直した。
「どうした?」
「忘れ物」
どこまでも強気な僕。
階段一段飛ばしで駆け上がり、202号室のドアを叩いて、住人に再会した。
顔を見るなり、僕は言った。
「すげえむかつくこと言われたんで、なんとかしてもいいですか?」
答えなんかいらない。
僕は欲しかった唇をさっさと奪い、耳元でぼそりと告げた。
「またな」
石黒にはさよならも言わなかった。
振り切るように、自転車のペダルをめいっぱいこいだ。
してやったり! っていう笑い顔を、見られるわけにはいかなかったから!


