部屋に落ちる沈黙。
 テレビをつけようと、リモコンに手を伸ばす先生を制した。
 僕は先生ともっと話したい。
 話がしたいんだ。

 先生はのそのそと席を立ち、ティーポットで紅茶を淹れてくれた。
 僕は砂時計を眺めていた。
 白い砂がさらさら落ちていく。

「僕は謝らないよ」

 時間が砂で表せるんだから、僕の言葉もなにかで表現できないんだろうか。
 僕の想い、形にならないだろうか。

「先生を抱いたこと。誰にも言うつもりはないし、それに……前よりもっと好きになった」

 倉井先生は、僕の知っているどんな『先生』とも違っている。
『先生』ってさ、生徒をビシバシしごくもんだと思ってたよ。
 おっかなくって、権力振りかざしてさ、でも僕らは生徒で立場弱いから、しょうがないって諦めてる。 
 対等になることを諦めてる。

 倉井先生はその点、はかなげで、今にもくじけてしまいそうで、それでいて頑固で、ぜったい譲れないモノを秘めている。
 ……譲ったっていいのに。
 ちょっとくらい、スキがあったっていいのに。
 僕はそんなに頼りにならない?
 話相手にもならない?

 僕は時間をかけてしゃべった。
 先生のどんな弱さも受け止めたかった。

 暖かいけど乾燥した部屋。
 すっかり冷めてしまった紅茶。
 砂糖がなかなか溶けなくて、スプーンでぐるぐる混ぜているとき、電子音がした。
 携帯電話の呼び出し音だった。
 僕はハンガーでつるしてあるダッフルコートの左ポケットを探った。