「え」

 思いがけぬ申し出に、僕はなんの冗談かと思った。
 こんなにトントン拍子にことが運んでいいんだろうか。
 実は物陰にカンちゃんとか堀柴サンが潜んでビデオ撮影していて、見世物として同窓会の余興に使うとか……。
 あり得る。おおいにあり得る。

「四歳児を抱えての長距離移動は大変なので、いてくれると助かります」
「ああ。そっちか」

 極めて現実的な理由を示されて、やっぱりねと思う。
 先生の息子のはるとくん、本名は石黒大翔と書く。
 漢字だと僕とは似ても似つかない。
 島が過疎地域のため、幼稚園でも快く滞在中の大翔くんの短期預かりを受け入れてくれたそうだ。

「ずっと気になってたんだけどさ」
 聞くなら今しかない。
 僕は自分の声が震えないように気を張って尋ねた。
 もうあのときから何年もたっていたから、普通に聞いても動揺は声に出なかったかもしれない。
 けれども自分の心がどう動くかまったく見当がつかなかった。

「はるとくんの名前の由来は、僕と関係ある?」