彼方の蒼

   ◇   ◇   ◇ 

 先のことなんか本当にわからない。
 思う結果が出ないかもしれない未知への挑戦も、続けてみるべきなのかもしれない。
 先生自身が、僕にとっては説得力のある道しるべだ。
 違う誰かから千の言葉を向けられても到底敵わない。揺るがない。

 そもそも片想いがなかったら、先生への執着がなかったら、受賞作は僕にとってもただのいい絵で終わっていたのかもしれない。
 そうだ、きっとこれほどの衝撃は受けなかった――。
  

 改心したおかげか、僕は美大に現役合格し、二年目の夏を迎えることができた。
 上級生に変なふうに気に入られてしまい、事あるごとにあちこちのイベントに駆り出され、参加者のような裏方のような曖昧な立ち位置にいて、自分の時間を確保するのが大変だった。
 今だってこんなことでもなければ知りもしなかったはるか遠方の島で里山アート共同制作中だ。
 海が近いせいか、来る日も来る日も空が際立って青い。


 滞在先で昼休憩をとっているところに、実家から同窓会の案内状が転送されてきた。
「委員長、相変わらずだな」
 往復はがきの往信側には余計なひとことが手書きで添えられている。
"倉井先生と必ず再会させてやるから来いよ!"
「倉井じゃなくて石黒だっての」


 同窓会があるのはカンちゃんや他の友人からのメールで知っていた。
 出るか出ないかは決めかねていたけれど。

 僕は午後休憩になるのを待って自転車を飛ばし、里山アートに出品する作家たちが滞在しているシェアハウスのような古民家を訪ねた。
 囲炉裏のある入口すぐの共有スペースは僕のような学生でも出入り自由で、何度か先輩に連れられて宴会に混ざったこともある。

 時計を見ながら暇を持て余していると、待ち人が来た。
「なにか、飲みますか」
「じゃあコーヒーを」
「冷たいのでいいですか」
「はい」
 淹れてもらった水出しのアイスコーヒーで喉を潤す。

「こんな葉書が届いたんだ。見る?」
 真向かいに座っているその人に、委員長直筆メッセージつきの往復はがきを差し出す。
 昔と少しも変わらない笑顔が広がったのを確認して、やっと満足できた。
 炎天下、ここまで自転車で駆けつけたかいがあった。

「どうする? 石黒先生」