彼方の蒼

 幸いなことに世界はわからないことだらけのままだった。
 年度予定で最も重要視していた美術公募展で、まさかと思う出来事があった。
 二重の意味で度肝を抜かれた。
 素晴らしい作品ばかりだったけれど、迫力が群を抜いていたのはただひとつ。

 その制作者名には、石黒葉子と名が記されていた。


 カズオミくんが肩を叩かれなかったら、一晩中そこに突っ立っていたんじゃないだろうか僕は。
 自分の自信作もなにかしらの賞に引っかかっていたけれど、中途半端なものを出品して申し訳ありませんと詫びたくなった。
 こんなんじゃだめだとしか思えなかった。
 展示スペースから持ち去って、最初からなかったことにしたいくらいだった。

 もう一度、やり直さなくては。


 受賞した数名を褒めたたえ、次回作への意欲を新たに会場を去る美術部員の最後尾で、僕だけが口を閉ざしていた。
 にわかに胸の内に湧き上がった熱いものの正体を持て余していた。
 こんなの、ひとりでがんばっているときには一度も出会ったことがない。

 力の出し惜しみをすることなく高みをめざしたなかで、これだけやればよしと満足していた。
 実際に結果もついてきた。
 できたと思っていた。

 それが今、覆された。
 ある程度のラインまではいけても、もうそこから先へは行ける気がしない。
 こんなふうに先生のすごさを思い知られるなんてね。