◇ ◇ ◇
梅雨空の合間の晴れの日、この期を逃すまいと僕はカズオミくんと隣町まで足を運んでいた。
このあたりで随一の品揃えを誇る画材専門店があって、部の先輩からも行ってみるといいよと勧められていたからだった。
インターネットでも買えるしね、と乗り気でなかった僕をカズオミくんがまあまあといつもの要領で言い含める形だったのだけれど、人の話ってちゃんと聞いてみるもんだね。
「いいな。ここ」
「うん。扱う物の種類も豊富だけど、それだけじゃなくて」
僕の言わんとしていることをカズオミくんも言いたかったみたいだ。
買いに来ている客の質問に丁寧に答える店員には好感が持てたし、陳列棚の幅もゆったりと取ってあって、全部をまわりやすかった。
品物にしても、見ているだけで、触ってみたい、使ってみたいという気持ちにさせられるし、画材特有の匂いも道具に囲まれていると実感できた。
僕は絵が好きなんだな。
改めて思った。
それに、絵の好きな人がやってくるこの場所が好きだ。
BGMのない静かな店内で、僕らは小声でいいねを連発した。
あれこれ試したい欲を抑えつつ、そうはいってもせっかく遠出したのだからと適当に冒険の入った選択をして会計に向かおうとしたときのことだ。
なぜと問われても答えられない。
気配とも視線ともつかないものに導かれるかのように、僕は振り返った。
通路の向こうに女性が立っていた。
口元に手を当てて、不躾なくらいにじっとこちらを見ている。
フリルが四段入った白いブラウスに灰色の七分袖カーディガン。
くるぶしまでの黒いパンツ。
ローヒールの靴と肩にかけている大きな鞄は揃って紺青。
顎の下までの緩く波打った髪だけが、僕のこれまで持っていた印象と異なっている。
それでも、見間違うはずがない。
「倉井先生」
偶然の再会だった。
梅雨空の合間の晴れの日、この期を逃すまいと僕はカズオミくんと隣町まで足を運んでいた。
このあたりで随一の品揃えを誇る画材専門店があって、部の先輩からも行ってみるといいよと勧められていたからだった。
インターネットでも買えるしね、と乗り気でなかった僕をカズオミくんがまあまあといつもの要領で言い含める形だったのだけれど、人の話ってちゃんと聞いてみるもんだね。
「いいな。ここ」
「うん。扱う物の種類も豊富だけど、それだけじゃなくて」
僕の言わんとしていることをカズオミくんも言いたかったみたいだ。
買いに来ている客の質問に丁寧に答える店員には好感が持てたし、陳列棚の幅もゆったりと取ってあって、全部をまわりやすかった。
品物にしても、見ているだけで、触ってみたい、使ってみたいという気持ちにさせられるし、画材特有の匂いも道具に囲まれていると実感できた。
僕は絵が好きなんだな。
改めて思った。
それに、絵の好きな人がやってくるこの場所が好きだ。
BGMのない静かな店内で、僕らは小声でいいねを連発した。
あれこれ試したい欲を抑えつつ、そうはいってもせっかく遠出したのだからと適当に冒険の入った選択をして会計に向かおうとしたときのことだ。
なぜと問われても答えられない。
気配とも視線ともつかないものに導かれるかのように、僕は振り返った。
通路の向こうに女性が立っていた。
口元に手を当てて、不躾なくらいにじっとこちらを見ている。
フリルが四段入った白いブラウスに灰色の七分袖カーディガン。
くるぶしまでの黒いパンツ。
ローヒールの靴と肩にかけている大きな鞄は揃って紺青。
顎の下までの緩く波打った髪だけが、僕のこれまで持っていた印象と異なっている。
それでも、見間違うはずがない。
「倉井先生」
偶然の再会だった。


