じきにわかります、と倉井先生。
「そうこうしているうちに、少しおつきあいの真似事のようなことをさせていただいていた石黒先生の子供を妊娠して」
おつきあいの真似事、と言うとき、言葉を見つけるのに時間がかかった様子だった。
「妊娠したことで今後の見通しが制限されて、教職を続けることさえ危うくなって、諦めるどころかこれで完全に道が絶たれたと思いました。気持ちの整理が中途半端だったのだと思い知りました。周囲の生徒たちは受験まであとわずかだし、お腹の子は私がくよくよしているあいだにも成長を続けている。私個人のことで後悔したり四の五の言ったりしているときではありません」
これはあれだ。決意。
「認識を改めようと思いました。彼か彼女かわからない、お腹のこの子がチャンスをくれたのだと。もう迷わない。私はこの子に恥じない人でありたい。いろんなものに触れ、貪欲でありたい」
倉井先生の決意のほどが、言葉の端々から伝わってくる。
「もう一度、絵をやります。教師も辞めずに続けます。もう来なくていいですよと言われるまで。塾の先生でも非常勤講師でもなんでもいい。絵に夢中になっている子供たちと関わっていたいんです。あなたのような人と出会えるのは楽しいから」
言えるのはそれだけです、とおしまいの合図のように倉井先生は告げた。
女の人はずるい。
流麗なしゃべりで人を気持ちよくさせてしまう。
寡黙な人だったんじゃないのかよ。
だんまりで来ていて、ここにきてこんな。
こんなのずるい。


