堀柴サンに続いて、僕は内山からもボタンが欲しいと言われた。
欲しがる人にはあげるって話を聞いていたんだろうか。
うっかりしたことを言ってまた導火線云々と怯えられるのも嫌だから、いいよとあっさり渡す。
内山は僕のブレザーの一番上、ボタンがすでになくなっているあたりに目を留めた。
「倉井先生にあげたの?」
違うよ、と僕は笑った。
「あ、まずかったかな。僕に本命いるのに、別の子にあげたのってよくなかったかな」
そりゃそうでしょ、と僕のぼんやりな対応を内山はちゃんと笑ってくれた。
「でも意外。倉井先生に惚れこんでいるのを知っててももらいにくる子がいるんだね」
「内山だってそうじゃないか」
「私のはそういうんじゃなくて。思い出作りでもなくて。笑わないって約束できる?」
「勿論」
「まえに惣山くんに音楽の道の話をしたから。気持ちを忘れないようにっていう、誓いのようなもの?」
「あー、いいね。美しい」
畑こそ違うけれど、内山とは共感できるものが多い。
「そう思ってくれる?」
「うん。思う。僕のでいいのなら光栄だ」
——というか。
“もしかしたら片方はカモフラージュで、片方が本命かもよ?”
堀柴サン。そうなの?
僕が倉井先生を好きでも、僕のボタンが欲しかったの?
お守りにすると言ったときのいつになく硬い表情が記憶によみがえる。
くすっと内山が忍び笑いをした。
「でもその恰好を見て倉井先生がどう思うか、見ものかも」
「やきもちを焼くかもしれない、って?」
堀柴サン。そうなのか?
君って人はそこまで考えて、倉井先生に嫉妬させるために僕からボタンを取ったの?
混乱して黙り込む僕に、内山はなにか勘違いをしたみたいだ。
「あんまり期待しないほうがいいと思うよ」
妙な気遣いをしてみせた。


